大阪地方裁判所 平成7年(ワ)9195号 判決 1997年6月27日
原告
森田忠夫
右訴訟代理人弁護士
古川毅
被告
株式会社サンスリー
右代表者代表取締役
細川進太郎
被告
細川進太郎
右被告ら訴訟代理人弁護士
益満清輝
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金二〇〇〇万円及びこれに対する平成七年九月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 第1項につき仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 被告株式会社サンスリー(以下「被告会社」という)は、自動販売機による飲料水の販売等を業とする会社であり、被告細川進太郎(以下「被告細川」という)は、被告会社の代表取締役である。
(二) 原告は、平成五年六月、被告会社に入社し、被告会社が販売する商品の管理及び集金業務に従事してきた。
2 原告は、平成六年七月下旬ころ、被告細川から、原告の集金額に不足があったことを理由に出勤停止の処置を受け、さらに、被告細川は、同年八月五日、原告に対し、右集金額の不足は横領に基づくものであり、その犯人は原告しかいないとの結論に達した旨を告知された。
しかし、原告は、身に覚えがなかったため、被告細川に対し、潔白を主張するとともに、原告だけが出勤停止の処置を受けた理由や原告が横領犯人とされた根拠を質したところ、被告細川は、原告に対し、原告の出勤停止期間中は集金額が不足したことはなかったと答えた。また、被告細川は、原告に対し、原告を現金を扱わない関連会社に出向させることを検討している旨を告げた。
被告細川は、同年八月一七日、原告に対し、前記現金を扱わないとの理由で、関連会社である大進産業株式会社(以下「大進産業」という)への出向を求めたが、原告は、理不尽であるとして、この要求を拒絶した。被告細川は、さらに、同月一九日、原告に対して、同様の理由で、大進産業への出向を要求し、原告がこれを拒否したところ、原告は、被告細川から、同月二〇日付けで解雇する旨通告された。
3(一) 右のとおり、被告細川は、原告を横領の犯人と断定し、その旨を原告に告知したのであるが、このことは、合理的根拠を欠き、極端な偏見に基づくものである。さらに、被告細川は、右の誤った判断を前提に、原告が受け入れる余地がないことを知りながら、原告に対し、現金を扱わないとの理由による大進産業への出向を強要した。そして、原告が右出向要求を拒絶するや、被告細川は、直ちに解雇を通告したのである。
(二) 原告は、被告細川から原告が横領の犯人であると断定され、その旨を告知されたうえ、原告が横領の犯人であるとの誤った判断に基づき、一連の行為として行った自宅待機命令、出向命令、解雇通告により、著しく名誉感情を害されたうえ、社会的評価の失墜等多大の精神的損害を被ったばかりでなく、被告会社から排除され、職を奪われるなど重大な経済的打撃を受けた。
(三) 右被告細川の一連の行為は、被告会社の代表者としての職務の執行として行われたものであるから、被告会社が不法行為責任を負担することは明らかである。そして、被告細川は、被告会社の代表取締役の地位にあるところ、故意または重大な過失により、前記各行為を行ったのであるから、商法二六六条の三に基づき、原告に対して、損害賠償義務を負担しなければならない。
(四) 原告が被告細川の右各行為によって被った精神的損害に対する慰謝料は一五〇〇万円を下らず、また、経済的損害は五〇〇万円が相当である。
4 よって、原告は、被告ら各自に対し、右損害金合計二〇〇〇万円及びこれに対する弁済期の後である平成七年九月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)及び(二)の事実は認める。
2(一) 同2のうち、平成六年七月下旬ころ原告の集金額に不足があったことは認め、その余は争う。
(二) 被告会社は、後記のとおり、原告の担当地区にある自動販売機からの集金額の不足という事故が生じたたため、調査を行う必要が生じ、右調査の間原告に自宅待機を求めたにすぎない。このような事故が生じた場合、被告会社が調査を行うことは当然であり、また、右調査は慎重に行われ、原告を犯人と断定した事実はないから、原告の名誉を毀損してはいない。
3 同3の主張は争う。
三 被告の主張
1(一) 被告会社においては、平成六年七月二二日、原告が担当地域から集金し、被告会社に提出した金額がカウンターの集計結果から算定された金額より八万五七六〇円不足していることが判明したが、被告会社は、特段の調査を行わず、様子を見ていた。
(二) しかし、同月二四日にも、六万二七一〇円の不足が生じたことから、被告会社は、原告に対し、カウンターの見間違いや売上金の抜き忘れがなかったかを確認したところ、原告は、これを否定した。
さらに、同月二五日にも、三万〇五一〇円の不足が明らかになった。
(三) そこで、被告会社は、同月二七日、調査を行うこととし、原告に対し、原告担当の集金が不足する事故が続いていることを説明したうえで、調査の間自宅で待機するよう求め、原告に公布していた自動販売機の鍵を回収した。
2 被告会社は、自宅待機中であった原告につき、就労させずに給与だけを支払うことはできないと考え、同年八月一一日、原告に対し、調査が終わるまで大進産業で仕事を行うよう出向を命じた(以下「本件出向命令」という)。
3 しかし、原告は、本件出向命令を拒否したのであり、原告の右行為は、本来懲戒解雇事由に該当するが、被告会社は、原告の将来を考慮して、被告会社の就業規則三七条三項(社員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合)による普通解雇に付することとし、平成六年八月一九日、原告に対し、出向に応じないなら同月二〇日をもって解雇する旨を通告した(以下「本件解雇」という)のである。
四 被告の主張に対する認否
1(一) 被告の主張1(一)のうち、原告が平成六年七月二二日に担当地域から集金した金額がカウンターの集計結果から算定された金額より八万五七六〇円不足していたことは認め、その余は争う。
(二) 同1(二)のうち、原告が担当地域から集金した金額につき、同月二四日に六万二七一〇円の、同月二五日にも三万〇五一〇円の不足が生じたことは認め、その余は争う。
(三) 同1(三)のうち、被告会社が原告に自宅待機を求め、原告に交付していた自動販売機の鍵を回収したことは認め(ただし、鍵を回収したのは同月二六日である)、その余は争う。
2 同2のうち、被告会社が本件出向命令を発したこと(ただし、本件出向命令の発令は平成六年八月一七日である)は認め、その余は争う。
3 同3のうち、被告会社が本件解雇を行ったことは認め、その余は争う。
第三証拠(略)
理由
一 被告会社が自動販売機による飲料水の販売等を業とする会社であり、被告細川が被告会社の代表取締役であること、原告が平成五年六月に被告会社に入社し、被告会社が販売する商品の管理及び集金業務に従事してきたこと、原告が平成六年七月二二日に担当地域から集金した金額がカウンターの集計結果から算定された金額より八万五七六〇円不足していたこと、原告が担当地域から集金した金額につき、同月二四日に六万二七一〇円の、同月二五日にも三万〇五一〇円の不足が生じたこと、被告会社が原告に自宅待機を求め、原告に交付していた自動販売機の鍵を回収したこと(ただし、鍵を回収したのは時期については争いがある)、被告会社が本件出向命令を発したこと(ただし、本件出向命令を発した時期については争いがある)及び被告会社が本件解雇を行ったことは、当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いのない事実、(書証略)原告及び被告細川(被告会社代表者)の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 原告は、平成五年六月、被告会社に入社し、自動販売機の缶入り飲料水の補充及び自動販売機からの集金業務に従事してきた。
被告会社は、サントリーフーズ株式会社(以下「サントリーフーズ」という)から一五〇台程の自動販売機を借り受け、各所に設置し、これによる売上げを主な収入としており、商品は、サントリーフーズから供給を受けていた。被告会社の販売地域は三つに分けられ、それぞれ区域に約五〇台の自動販売機が設置され、原告を含む三人の従業員が、各自に割り当てられた区域を担当していた。自動販売機の飲料水の補充や売上金の集金は、鍵を用いて扉を開けて行うようになっており、各担当者は、自動販売機のメーカーに応じた三種の鍵を一組としたものを交付されており、被告会社及びサントリーフーズも、右各担当者に交付されていたのと同じ鍵を一組ずつ保有していた。
また、原告を含む担当者の業務は、自動販売機の扉を開け、所定の額の釣銭を残して売上金を回収し、減少した缶入り飲料水を補充するとともに、自動販売機内の売却個数を示すカウンターの数字を入金報告書に書き写すといった手順で行われていた。
2 ところが、平成六年七月二二日、原告が担当区域の自動販売機から回収し、被告会社に提出した売上金がカウンターの数字により計算した金額よりも合計八万五七六〇円不足するという事態が生じた(この事件に後記同月二四、二五日に発生した各事件を合わせて、以下「本件事件」という)。原告は、集金の際、このことに気付き、同僚が集金したのかも知れないと思い、確認のため、被告会社に電話をかけたが、被告会社は、分からないとのことであった。原告は、帰社後、被告細川の妻で被告会社の監査役の細川邦子(以下「邦子」という)に対し、売上金が不足している旨を報告したところ、邦子は、次回の集金の際に抜き忘れを確認するよう告げた。
原告は、同月二三日は休みをとり、同月二四日に業務に就いたところ、同月二二日と同様、合計六万二七一〇円の売上金の不足があった。原告は、このことについても、邦子に報告したが、邦子は、しばらく様子をみる旨を告げただけであった。さらに、同月二五日にも、合計三万五〇一〇円の不足があったが、報告を受けた邦子の対応は、従前と同様であった。
なお、右のいずれの場合においても、自動販売機が壊されたり、こじ開けられたりした形跡はなかった。
3 原告は、平成六年七月二六日朝、被告会社に出社したところ、被告細川から、出社を控えるよう告げられ、自宅待機を申し渡されるとともに、自動販売機の鍵を渡すよう求められた。この際、被告細川は、原告に対し、「おかしいやないか。どうなっているのか」などの発言があり、原告は、自分が疑われているものと感じ、「どうなっているのか分かりません」などと応じた。
原告は、被告細川に命じられたとおり、自宅で待機していたが、同月二九日ころ、被告会社に電話をかけたところ、被告細川は、原告に対し、被害届の準備ができていないことや調査が未了であることを理由に、もう少し待つよう求めた。その後、何の連絡もなかったため、原告は、同年八月一日ころ、被告会社に出社してもよいかどうかを尋ねたところ、見合わせるようにとの指示を受けた。
被告会社が、本件事件について行った調査の対象者は、原告、他の地区を担当していた被告会社の従業員二名、これらの者の休暇等の場合の補充要員として稼働していた大進産業の従業員及びサントリーフーズが委託した自動販売機の機械業者であった。そして、調査内容は、対象者の入金報告書に基づく集金状況、業務に使用する車両の走行距離や時間、対象者からの事情聴取、夜間における自動販売機の抜打ち調査などであったが、調査のために自宅待機を求められたのは、原告だけであった。
4 原告は、平成六年八月五日、被告会社の求めに応じて出社し、被告細川と面談した。右面談において、被告細川が原告に話した主な内容は、警察から呼出しがあったら応じること、原告が売上金を領得したことが明らかになった場合には給料は支払わず、かつ損害の賠償を求めるかもしれないこと、原告を就労させずに給料を払い続けることはできないので、原告の大進産業への出向を検討していることなどであった。被告細川は、この面談において、「森田君しかないだろうと、いう事の結論なんです」などと述べ、また、被告会社は原告を犯人と思っているのかとの問いに対しては、「そうですね。それはそれであなたは違うというわけですから………」と答えた。さらに、原告の大進産業への出向について、「大進に行ってもらったら現金は扱いませんから、何とも無いですわな」と述べたほか、一週間様子をみて何もなかったら原告に容疑が強くなる、原告が自宅待機していた間は何も起こっていないなどと告げた。
なお、大進産業は、被告会社の親会社で、大阪市の指定業者として、展示会場の設営等を業とする会社で、被告細川が代表者を兼任していた。
5 原告は、平成六年八月六日及び同月七日の二日間にわたって、被告会社の指示にしたがい、前記事件につき、各自動販売機の所在地を管轄する警察署に被害届を提出したが、東住吉警察署では、被告会社の責任者の来署を求められ、被害届の受理を拒否されたため、邦子が東住吉警察署に赴いた。
原告は、警察の捜査により事件が解明されることを望み、自宅で待機していたが、警察からの連絡がなかったため、平成六年八月一一日、被告細川に電話をかけて、様子を聞いたが、被告細川には、捜査の状況は分からなかった。
6 原告は、平成六年八月一七日、被告細川から、大進産業への出向を求められ(本件出向命令)、右出向に応じなければ解雇する旨を告げられた。原告は、さらに、同月一九日にも、被告細川と面談したが、その際、被告細川は、被告会社での業務は現金を扱うこと、前記事件が解決されていないことを理由に、原告に対し、大進産業への出向を命じ、これを拒否した原告に対し、同月二〇日付けで解雇する旨を通告(本件解雇)した。
なお、被告細川は、原告の大進産業への出向について、前記事件が解明されるまでの一時的処置であり、原告に対する嫌疑が晴れれば、被告会社に復帰させることを考えていたが、そのことは、原告に話してはいなかった。
7 原告は、平成六年八月二三日、東住吉警察署に出頭して、ポリグラフ検査を受けた。右検査は、原告以外の被告会社の従業員も受けたが、いずれの検査結果にも、特段の問題となるようなことはなく、原告は、以後取調べや事情聴取を受けていない。
8 原告は、平成六年八月二五日、被告会社を訪れ、給与の支払いを受けたが、解雇予告手当ての支給はなかった。その際、被告細川は、大進産業への出向について、原告が入院等で欠勤が多く、被告会社にあっていないなどと述べたほか、本件事件の犯人が鍵を持っている者である可能性があり、原告もその中の一人であった旨及び原告の担当地区で事件が生じたことが原告だけが自宅待機を命じられた理由である旨を述べた。
三 原告の本件各請求の当否について検討する。
1 原告は、被告細川が原告を本件事件の犯人であると根拠なく決めつけ、原告にその旨を告知したこと、この誤った判断に基づき、原告に対して自宅待機や大進産業への出向(本件出向命令)を命じ、これを拒否した原告を解雇した(本件解雇)ことが不法行為に該当する旨を主張する。
(一)(1) しかしながら、前記認定の事実によれば、本件事件は、原告の担当する地域に設置された自動販売機において発生したものであり、自動販売機が壊されたり、こじ開けられたりした形跡もなかったのであるから、被告細川が、本件事件が自動販売機の鍵を利用して敢行されたとの疑いを抱いたのは当然というべきである。そして、自動販売機の鍵を保有していたのは、原告を含む被告会社の三名の従業員のほかは、被告会社及びサントリーフーズだけであったのであるから、被告細川がこれらの者を対象として、内部的調査を行い、本件事件を解明しようとしたとしても、何ら不当であったということはできない。
(2) 確かに、(書証略)(いずれも原告と被告細川とのやりとりを録音したテープの反訳書)によれば、前記認定にもあるように、被告細川が、原告が本件事件の犯人であることを確信しているかのように受け取れる発言に及んでいることが認められる。しかしながら、前記認定の事実によれば、被告細川は、原告が本件事件の犯人であったのではないかとの疑惑を抱いてはいたものの、そのように断定するだけの確証はなく、警察の捜査等により本件事件の全容が解明されるのをまって、原告への対応を決めようとしていたのであり、その間原告に対して自宅待機を命じはしたものの、給与の支払いは続けていたのである。そして、右各証拠の記載に表われた被告細川の発言も、これを全体の文脈からみれば、右の事実に沿うものといえる。そうすると、先に認定したように、原告と被告細川との前記各話し合いの際、被告細川から原告が本件事件の犯人であるかのような趣旨に受け取られる余地のある言辞が発せられたとしても、それは、双方の言葉のやりとりの中での表現にすぎないというべきであって、前記判示の事情に照らせば、そのことから直ちに、被告細川が、原告が本件事件の犯人であると決めつけたとすることはできない。
また、右原告と被告細川とのやりとりは、公の場で行われたものではないから、そのことによって、原告の社会的評価が失墜したともいえない。
(二) さらに、前記認定のとおり、原告に対しては自宅待機の間も給与が支払われていたことに照らせば、右自宅待機は、原告に対する懲戒的な意味をもつものとはいえず、単に被告会が調査を行っている間、原告の就労義務を免除したにすぎないと解すべきである。そして、原告だけが自宅待機の対象にされたことも、本件事故が原告の担当区域のみで発生したことに鑑みれば、その一事をもって、右自宅待機が原告を本件事件の犯人と決めつけたことに基づく違法な行為であったとすることはできない。
(三) また、本件出向命令についても、右自宅待機について述べたのと同様、原告が本件事件の犯人であるとの断定によるものとはいえないし、本件解雇は、原告が本件出向命令に従わなかったことを直接の理由としたものというべきであって、原告が本件事件の犯人であるとの判断を前提としたものといいきることもできない。
(四) 右判示のとおり、被告細川が、原告を本件事件の犯人であると断定し、原告にその旨を告知したとはいえず、また、原告に対する自宅待機命令、本件出向命令及び本件解雇も、原告が本件事件の犯人であるとの判断に基づくものともいえない。
2(一) 原告の本件各請求は、被告細川が原告を本件事件の犯人であると決めつけ、その旨を告知して、原告の名誉を毀損したほか、原告が本件事件の犯人であるとの事実無根の誤った判断を前提として、原告に自宅待機を命じたうえ、本件出向命令を発し、さらには、本件解雇に及んだことにより、原告に対して、精神的、財産的損害を与えたことが不法行為に該当するとして、被告らに対し、損害の賠償を請求するものである。
(二) しかしながら、右判示のとおり、被告細川が原告を本件事件の犯人であると決めつけて、その旨を原告に告知したり、原告に対する自宅待機命令、本件出向命令及び本件解雇が原告が本件事件の犯人であるとの判断に基づくものであったとすることはできないから、原告の右請求は、その前提を欠くといわなければならない。
(三) 確かに、前記認定の事実によれば、被告細川の対応にも適切さを欠いた点がないではない。例えば、本件出向命令が本件事件の解明に至るまでの一時的措置であることについての充分な説明を行うなど、原告に時々の状況を説明し、その納得を得るための努力が不足していたといわれても仕方がない事情も指摘できる。しかしながら、そのような事情を考慮してもなお、被告細川が行った前記諸行為が不法行為を構成するまでの違法性があるとはいえない。
(四) そして、原告は、被告細川の前記諸行為につき、他の違法原因を主張しないのであるから、結局、原告の本件各請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当といわざるを得ず、棄却を免れない。
四 以上の次第で、原告の本件各請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 長久保尚善)